| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-B-061 (Poster presentation)
中国山地の蒜山地域には、火入れによって維持される半自然草原が広がっている。また多くの製鉄遺跡が存在し、近世には鉄穴流しによる地形改変が進んだとされる。この地域における植生と火事の歴史を解明するため、岡山県真庭市の大原湿原(標高510m)で採取した深度410cmまでの堆積物について、花粉および微粒炭分析を実施した。
この堆積物の深度270cmには大山東大山テフラ(DHg;約29000年前に降灰)が狭在する。また放射性炭素年代測定の結果、深度140cmで約9000年前という年代が得られた。花粉・微粒炭分析の結果、DHgの降灰層準から深度230cmにかけては、モミ属、ツガ属、マツ属単維管束亜属などのマツ科針葉樹、コウヤマキやスギなどの温帯針葉樹、およびクマシデ属、カバノキ属などの落葉広葉樹といった多様な分類群からなる花粉組成が得られた。深度230-160cmでは、マツ科針葉樹が減少し、クマシデ属やコナラ亜属、トチノキ属などの落葉広葉樹花粉が増加した。キンポウゲ科やキク亜科、ヨモギ属といった草本花粉も多く出現した。約9000年前の層準の前後、深度160-120cmでは微粒炭が多く、コナラ亜属、クリ属/シイ属およびイネ科花粉が増加した。深度120-80cmでは、花粉も微粒炭も少なかった。深度80cm以浅では、微粒炭およびコナラ亜属花粉が多く、マツ属複維管束亜属やブナ属などが増加した。草本花粉ではイネ科が多く、タンポポ亜科やキク亜科などもみられた。
これらより、大原湿原周辺では、DHg降灰前後から陽生草本が連続して生育していたことが明らかになった。とくに約1万年前以降は、断続的に起きる火事によって、イネ科を中心とする草原が継続してきたことが示唆される。当地域での既往の花粉分析においても、晩氷期から後氷期初期にかけて草本花粉が非常に多くみられるが、その背景に火事の頻発があった可能性がある。