| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-C-105 (Poster presentation)
サケ科魚類では同一種内に大きく異なる二つの生活史が存在する。ひとつは、河川で成長したのちに海を回遊し再び生まれた河川に戻ってくる降海型、もうひとつは、海で回遊することなく河川で成熟にまで達する残留型である。古くからこれら生活史の分岐に関する研究が行われており、成長が良い個体ほど残留型となることが多数報告されている。一方、分岐に対する遺伝性に関しては、飼育実験により遺伝性の高さが示唆されているものの、どの段階で成長に差異が生まれているかは不明である。そこで本研究では、サクラマスを材料に人工授精を行い、生活史初期の成長に対する遺伝性を明らかにすることを目的とした。人工授精に用いた個体は、2004年から2016年の間に北海道内の4河川において捕獲した降海型雌10尾(成熟年齢2-3歳、体サイズ48.5-63.0 cm)、残留型雄36尾(0-2歳、9.5-21.3 cm)および降海型雄36尾(2-3歳、32.0-66.4 cm)である。これら個体を用いて計120sibを作り、浮上する時期まで一定の環境で飼育した後、以下の3つの実験を行った。1つ目は、浮上時期における体サイズの比較であり、2938個体を計測した結果、残留型の若齢親から生まれてきた子供ほど浮上時期の体サイズが大型であることが明らかになった。2つ目は、60日間の飼育実験であり、浮上時期において生じた体サイズの差異は60日後にも維持されており、成長差は拡大していることが示された。3つ目の実験として、受精卵の代謝率を測定した結果、残留型の受精卵は降海型の受精卵に比べて代謝率が高い傾向であった。以上のことから、親の生活史の違いによって卵の発生速度が異なっており、結果として浮上後において残留型の子供ほど降海型の子供に比べて大型になり、さらには生活史分岐で残留型になるのではないかと考えられた。