| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-C-109 (Poster presentation)
寄生生物の感染動態や生態系における役割を解明するためには、その生活史を理解することが不可欠である。多くの寄生生物は、季節変化する環境で生活をしている。そのため、寄生生物や宿主群集の季節的な出生や繁殖(フェノロジー)を考慮することが、寄生生物の生活史の解明につながる。
ハリガネムシ類は、水生昆虫(中間宿主)に寄生した後、羽化した水生昆虫を捕食する陸生昆虫を終宿主として利用する。最終的に、終宿主の入水行動を生起して河川に飛び込ませることで水域に戻り、繁殖をして死亡する。この生活環は、既知の淡水性ハリガネムシ類すべてに共通すると言われている。しかし、ハリガネムシ類がどのような季節性をもって宿主を転換し、生活史を完結しているのかはほとんど明らかでない。
本研究では、北海道に広く優占し、春に繁殖するハリガネムシ類(Gordionus sp.)について、(1)卵の孵化する時期、(2)水生昆虫(中間宿主)の羽化によって森林生態系へ移動する時期、および(3)陸生昆虫(終宿主)に感染する時期を詳細に調べた。
北海道の河川水温を参考に、Gordionus sp.の卵の孵化日数を5℃、10℃、15℃で測定した結果、およそ2~4ヶ月で孵化することが明らかになった。水生昆虫成虫への感染率の季節変化を調べた結果、カゲロウ目やトビケラ目の種では6-7月に、ユスリカ科では8-10月に高くなっていた。地表徘徊性甲虫の分析と飼育実験からは、Gordionus sp.の主要な終宿主がツンベルグナガゴミムシであり、それらが6-9月と長い繁殖期をもち、かつ成虫越冬をする可能性が示唆された。さらに、徘徊性甲虫に感染していたハリガネムシ幼虫の体サイズには、明瞭な季節的傾向が見られなかった。これらの結果は、水生昆虫の羽化フェノロジーの多様性と長寿命なゴミムシ類によって、Gordionus sp.が生活史を完結するための感染経路が、季節的に多様に保たれている可能性を示唆する。