| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-C-110 (Poster presentation)
多くの好蟻性シジミチョウ種は、幼虫期にアリとの共生関係構築に寄与する数種類の好蟻性器官を持つが、それらの多くは蛹化時に消失する。それにも関わらず、蛹期にもアリとの共生関係を維持するシジミチョウ種も少なくない。特定のアリ種と絶対的共生関係を持つシジミチョウの幼虫は、寄主アリの同巣認識因子である体表炭化水素(CHC)を擬態することで潜在的捕食者であるアリの攻撃を回避し、そのまま巣内で蛹化してもアリからの攻撃を受けにくい。一方、複数のアリ種と任意的共生関係を持つミヤマシジミは、クロオオアリ巣内で蛹化することもあるが、寄主へのCHC擬態は行わない。幾つかの主要な好蟻性器官を欠く蛹期を潜在的には捕食者であるアリの巣内で過ごすには、アリによる捕食を回避する代替戦術を持っている可能性が高い。GC-MS分析の結果、本種の蛹体表成分には幼虫体表成分には含まれていない長鎖脂肪族アルデヒド類が含まれることが判明した。そこで、アリの攻撃行動を解発する同種異巣アリのCHCにそのアルデヒド類を混合して3種のアリで検定した結果、クロオオアリの攻撃性は有意に低下したが、トビイロケアリ・クロヤマアリの攻撃性に有意な変化はみられなかった。このクロオオアリに特化した攻撃抑制戦術は、少なくとも蛹期のミヤマシジミにとってクロオオアリとの共生が特に重要であることを示唆する。このことから、ミヤマシジミは他種アリよりもクロオオアリとの共生に適応している可能性がある。これを検証するためにクロオオアリもしくはトビイロケアリに随伴させた条件とアリを随伴させない条件で飼育実験を行った結果、3飼育条件で成虫になるまでに要する時間に有意な差は見られなかったが、成虫の乾燥重量はクロオオアリに随伴させて飼育した場合にのみ有意に大きくなった。以上のことより、任意的共生種のミヤマシジミはクロオオアリとの共生により適応した好蟻性戦術を持つことが示唆された。