| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-C-121  (Poster presentation)

野生サケと放流サケの形態差:北海道の千歳川に回帰した親魚の比較から考える

*佐橋玄記(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター), 森田健太郎(水産研究・教育機構北海道区水産研究所), 西村欣也(北海道大学大学院水産科学研究院)

千歳川では、人が捕獲した親魚から人工受精で生まれ稚魚まで人工飼育されてから野外に放流された「放流サケ」と、人に捕獲されなかった親魚から自然産卵で生まれた「野生サケ」が混在して繁殖回帰する。人工ふ化放流には無作為に選ばれた親魚が用いられるが、放流魚-野生魚間でどの様に選択圧が異なるのかは明らかではない。本研究では、放流魚と野生魚の繁殖親魚の形態解析を行い、1世代の繁殖サイクルにおける人為・自然選択が及ぼす形態変異を、繁殖様式との関連から考察した。

2015年12月に千歳川中流部で捕獲されたサケ201個体について、背面および側面から写真撮影を行い、幾何学的形態測定手法の1つであるランドマーク法を用いて形態を定量化した。放流魚と野生魚は、放流魚に付けられた耳石温度標識の有無で判別した。

形態は、雌雄ともに野生魚と放流魚の間で異なった。また、背面および側面から投影した形態には、雌雄とも相関が見られ、背面と側面の輪郭は共変動した。メスでは、野生魚の方が放流魚に比べて、体サイズが大きいほど、腹部が膨らみ、尾部の厚みが増した。また、野生魚は放流魚に比べて、体が大きくても孕卵数があまり増加しない傾向が見られた。一方、オスでは、野生魚の方が放流魚に比べて、体高が高く、吻端が伸長し、胸部の体幅が広かった。

サケの自然産卵では、メスは放卵に加えて、尾部を用いて河床に産卵床の掘る必要がある。また、オスでは大型個体を中心に雄間闘争が見られる。一方、千歳川のサケ放流魚は、親魚がランダムに選ばれ、人工採卵・受精に供される。以上のことから、野生魚では自然選択(性選択)によって、産卵床の作成や雄間闘争に有利な方向に形態が変異したのに対し、放流魚では親魚が無作為に使用されるという人為選択によって、産卵数を増やし、武器形質の発達を抑制する方向に形態が変異したことで、野生魚と放流魚の間に形態差が生じたと考えられた。


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