| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-C-127 (Poster presentation)
有明海では,タイラギ,アサリ,サルボウをはじめとする二枚貝の資源量の低迷が続いている.二枚貝の減耗要因を解明し,資源回復方策を見出すことを目的に,物理環境や二枚貝斃死のモニタリングなど,これまで多くの調査研究が行われてきた.
しかし,実際に現場において観察されているのは,生残している二枚貝の個体数であり,「なにが死亡をもたらしたか?」という点については,間接的に推測するに留まっている.この問題を克服する解析法のひとつとして状態空間モデルが挙げられる.状態空間モデルを用いることによって,時系列データに含まれる生態的過程と観測過程の誤差を分離し,関心の対象である生態的過程の変動を抽出することが可能である.本研究では,有明海におけるモニタリング調査で蓄積されてきた二枚貝と物理環境の時系列データを用い,状態空間モデルによって有明海の二枚貝2種の個体群動態を推定した.
まず,有明海の主要な二枚貝資源であるタイラギを対象とし,近年の資源量の減少の主要因が,物理環境の変動と個体群動態(特性)の変化のどちらによるものかを検討するために.過去30年間の個体群増加率の年変動を推定した.その結果,タイラギの個体群増加率の顕著な低下は1980年代後半に起きており,その変化は有明海の主要な物理環境変動と一致しないことから,資源量の減少には個体群特性の変化の寄与が高いことが示唆された.
次に,有明海における二枚貝斃死の主要な物理環境要因のひとつとして考えられている貧酸素水塊の滞留(継続時間)がサルボウの個体群サイズの減少に与える影響の定量化を試みた.その結果,サルボウの個体群サイズ減耗の数割が貧酸素水塊の滞留で説明されると考えられたが,モデル構造(仮説)によって顕著に異なる結果となるため,更に検討を行う必要があることが伺えた.講演では双方の結果を基に,有明海の二枚貝資源の減少の主要因について総合的に考察する.