| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-D-141 (Poster presentation)
様々な節足動物体内に母系垂直伝播される共生細菌が存在することが知られている。そして、これらの共生細菌は、個体群中の感染メスの頻度を増加させるために、宿主の生殖様式を様々な方法で操作することが知られている。このような宿主と内部共生細菌との密接な関係の進化は、生物の共進化を考える上で重要である。また、宿主体内という資源的に限られた環境では、共存する内部共生細菌種間の相互作用も促進される。
水稲の重要害虫ヒメトビウンカでは、ほぼすべての個体群で、強力な細胞質不和合(感染オスと非感染メスが交尾した際に次世代が孵化しなくなる現象)を引き起こす共生細菌Wolbachiaが感染していることが知られていた。加えて、2000年代に台湾で性比がメスに偏った個体群が発見され、オスのみが幼虫期に死亡する「後期型オス殺し」を引き起こす共生細菌Spiroplasmaが感染していることが判明した。Spiroplasmaによるオス殺しは宿主の子孫をおよそ半減させる上、Wolbachiaの細胞質不和合という戦略を破綻させることになるため、SpiroplasmaはヒメトビウンカとWolbachiaの両者にとって不利益な存在であると考えられる。しかしながら、両細菌が重複感染した系統が特定の地域では高頻度で認められたことから、個体群中で重複感染が維持される何らかの意義の存在が示唆される。
そこで本研究では、異なる生殖操作を行うこれら2種の共生細菌が、宿主であるヒメトビウンカに対してどのような影響を及ぼしているのかを明らかにするため、抗生物質処理によって二重感染、それぞれの細菌の単独感染、非感染のヒメトビウンカ系統を作出し、幼虫期間、成虫寿命、生涯産卵数を比較した。一連の結果を踏まえ、それぞれの共生細菌がヒメトビウンカのパフォーマンスに及ぼす影響について報告する。