| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-D-152 (Poster presentation)
水俣湾において食物網解明を基にした魚類の水銀濃縮機構解明の研究を進めている。水俣湾の様々な環境(岩場や砂泥地、海中)に生息する魚類の水銀レベルと食物選好性の関係を明らかにする目的で、2013年~2016年にかけて、水俣湾および周辺海域において採集した63種、約800個体の魚類について筋肉部の総水銀レベル測定と胃内容解析を行った。総水銀は個体毎に測定し、魚種ごとに平均値を求めた。平均値は0に近い物から0.4ppmまで幅広い値を示したが、日本の暫定基準値である0.4ppmを越えた種類はいなかった。胃内容物は実体顕微鏡下にて出来る限り種(困難な場合は上位分類群)までの同定を行い、消化の進んだ物やかみ砕かれている物は遺伝子解析により餌種の特定を行い、魚類の食性区分を行った。肉食者(魚類食、甲殻類食、貝類食、ゴカイ類食、混在)、雑食、藻食に区分され、肉食者の割合が高かった。63種から生息環境や食性が異なる35種200個体を選び、炭素窒素安定同位体分析を行い、食物履歴と魚類の水銀レベルの比較を行った。さらに水俣湾の複数地点にて採集した表面海水のPOM(粒状有機物)32サンプル、底生藻類15サンプル、底泥8サンプルの窒素炭素安定同位体分析を行い、食物網解明と水銀蓄積経路について検討を行った。この結果、水銀蓄積には食性(肉食)、生息場所(底生生活)が重要で有ることが明らかになった。さらに同種の地点比較(カサゴ)では、岩場でカニを中心に摂餌している個体は砂泥地で多様な餌種に依存する個体より高い水銀レベルを示した。また、砂泥地に住む肉食魚類の比較では、底生魚類や大型甲殻類を餌種とする魚類は高い水銀レベルを示し、浮き魚のイワシを主要な餌とする魚類は低い値を示した。以上より、魚類の水銀蓄積には栄養段階の高さより餌種が重要で有る事が明らかとなり、また、生息場所に加え摂食場所を考慮する必要性が示された。