| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-D-154 (Poster presentation)
巨大災害による生態系への影響評価は「発災後の短期間に、なるべく多くの場所を、できるだけ簡便・かつある程度の定量性を担保した手法で実施」することが望ましい。そこで私たちは、東日本大震災が干潟生態系に及ぼした影響を広域的に評価するための手法として、研究者を対象としたアンケート調査を試行した。
アンケート調査は、東京湾から陸奥湾までの53サイトを対象とした。13名の研究者が震災前後に調査で立ち寄ったサイトについて、地形(津波、液状化、地盤沈下、構造物の破壊、干潟の創出など)、底質、植生、および大型底生動物への影響に関する23の質問に対し、1~4のスコア付け(1:影響なし、2:わずかに[10%程度]、3:中程度[50%程度]、4:甚大[ほぼ100%]、情報無し/対象外については0と回答)を依頼した。
アンケート結果を整理しクラスター解析を実施したところ、攪乱の規模に応じてサイトは6群に分けられた。攪乱の規模は各サイトにおける津波の高さ(最大浸水深)と地盤沈下量に良く対応した。攪乱が最大で、干潟が完全に消失したグループは主に三陸海岸、万石浦と松島湾外側のサイトからなり、最も高い津波(平均浸水深:12.6 m)もしくは最大の地盤沈下量(-70 cm)で特徴付けられた。また、仙台湾沿岸の潟湖干潟はいずれも底質の入れ替わり、漂砂の堆積、植生の喪失で特徴付けられた。一方、津波浸水深が平均1.3 mの青森県、松島湾奥部、東京湾内では津波の影響がほとんど無く、東京湾周辺海域では液状化の影響のみが顕著であった。最大浸水深と底生動物の多様性減少スコアとの関係から、浸水深が12 mを超えた干潟では、ほとんどの埋在底生動物が一時的に絶滅したことも示された。
これらの結果は、アンケート調査に基づく震災影響調査が、少ない労力で干潟への攪乱影響を評価するために、有効な手法の1つであることを示唆している。