| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-D-158 (Poster presentation)
沿岸生態系における高い基礎生産は、陸域からの栄養塩供給によって支えられている。一方、同じく陸域から流入する植物片を主体とした有機物は、主成分であるセルロースやリグニンが難分解性であること、および埋没すると動物による破砕や分解が進まないことから、沿岸生態系における有機物源として注目されてこなかった。しかし、海洋に流入した木片には、軟体動物二枚貝綱のフナクイムシ類や節足動物等脚目のキクイムシ類といった木材穿孔生物に加え、多様な生物が付随する。こうした群集は"沈木生物群集"と呼ばれ、有機物の乏しい深海域では、木片に由来する有機物が分類群を越えて広く餌利用されている。そこで本研究では、和歌山県の田辺湾、水深2 mの海底において4年間に及ぶ木片の設置・回収実験を実施し、海洋流入から消失に至る木片の破砕ステージ毎に、群集解析および炭素・窒素安定同位体比を用いた餌源推定を行った。結果、連続する破砕ステージ間で群集構造は有意に異なった(One-way ANOSIM、pairwise test、p < 0.05)。しかし、破砕の進行に伴うフナクイムシ類の増減や細かく破砕された木屑の周辺堆積物への供給と連動して、捕食者やデトリタス食者が増減することはなかった。多くの種は破砕ステージを通して周辺有機物を餌利用する一方で、木片を直接餌利用するフナクイムシ類(δ13C:-23.4±1.1 ‰、δ15N:6.2±1.2 ‰)や、それを捕食する環形動物ウミケムシ類(δ13C:-21.7±2.4 ‰、δ15N:6.45±1.1 ‰)、自由生活型従属栄養バクテリアを摂餌する軟体動物腹足綱のナギツボ(δ13C:-19.8±1.2 ‰、δ15N:9.0±0.9 ‰)といった一部の種または個体が、木片に由来する有機物を主要な餌として利用することが明らかになった。