| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-E-166 (Poster presentation)
福井県の三方湖では、2008年以降、浮葉植物ヒシが広範囲に分布するようになり、生物多様性および地域住民の生活に影響を及ぼすことから、低密度の管理が課題となっている。地元の漁協である鳥浜漁協は、小型船舶に取り付けたワイヤーを湖底に這うように引くことで、湖底付近のヒシの茎を切断するまたは茎ごと個体を引き抜く方法を提案した。この方法をヒシの伸長初期でバイオマスがまだ少ない春季に行うことによって、効果的にヒシを除去できる可能性がある。この方法では刈り取ったヒシを回収せず、回収のための労力も削減する。本研究では、本手法の有効性を実験的に検討した。
三方湖の上流側から下流側において4つの実験サイトを設けて、小型船舶を用いたヒシの刈り取りを行った。各実験サイトでは、4つの刈り取り区と4つの非刈り取り区(いずれも10×40 m)を設定した。ヒシの発芽時期と生長速度の個体差を考慮して2回の刈り取りを実施することとしたが、3つの実験サイトでは例年に比べて塩分濃度が高かったことに起因すると考えられるヒシの消失が確認されたため、1つの実験サイトでのみ2回の刈り取りを行った(5月下旬~6月中旬)。この実験サイトでは、非刈り取り区においてヒシの被度が平均72.7 %まで増加したのに対して、刈り取り区の被度は平均2.7 %であり、一般化線形混合モデルを用いた解析の結果、刈り取りが有意な効果を持つことが示された。
刈り取り時のヒシの生育形を調査するため、刈り取り実施前の5月下旬においてヒシを採集した。採取した個体を、分枝なし・1回分枝・2回以上分枝の3つに分類した結果、4つの実験サイトともに1回分枝の個体の頻度がもっとも高かった。また、1回以上分枝した個体においては、最大シュート長が50 cm以下の個体が含まれていた。刈り取りが1回のみの場合、このような小型の個体を刈り残す可能性があり、2回の刈り取りの有効性が示唆された。