| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-E-170 (Poster presentation)
東日本大震災により東北太平洋沿岸の干潟は大きな被害を受け、被災地の干潟では震災前後の生物生息状況の比較が行われている。本研究では東北の干潟を代表する生物である海産巻貝のウミニナ類を調査対象とし、宮城県松島湾・櫃ヶ浦にてウミニナ類の被災状況を明らかにするため、震災前(2010年)および震災後(2013~2016年)にコドラート調査を行った。また、2013年頃より震災後の新規加入と思われるウミニナ類の稚貝が観察されるようになった。しかし、ウミニナ類の稚貝は形態による種判別が困難であるため、新規加入個体群の種組成は不明であった。そこで本研究ではDNA解析を用いた種同定によりウミニナ類稚貝の種組成を明らかにした。
宮城県利府町の櫃ヶ浦(松島湾)にて、2010年および2013~2016年の5月にコドラート調査を行い、ウミニナ類各種の生息密度、体長組成、各種の種比率を明らかにした。また、2014年より震災後の新規加入であるウミニナ類の稚貝をランダムに50個体以上採集し、成貝における各種の種比率と稚貝における種比率をそれぞれ求めた。成貝サイズの種同定は形態により判別したが、形態による種同定が困難な稚貝(殻長20mm未満)についてはDNA解析(PCR-RFLP法)による種同定を行った。
震災後の櫃ヶ浦では震災前に生息していた準絶滅危惧種(環境省)のウミニナが見られなくなっていた。一方、ウミニナ類稚貝のDNA解析による種同定から、稚貝には約20%のウミニナが含まれており、成貝と稚貝の種組成に大きな違いがあることが明らかになった。また経年変化を調べると、震災後早い段階ではホソウミニナの生息密度が震災前より大幅に増加しており、災害の影響下における特異な生息状況がみられた。櫃ヶ浦は震災後も自然豊かな環境が維持された希少な干潟であり、2016年現在、ウミニナの回復が徐々に確認されている。