| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-E-171 (Poster presentation)
水田で稲とともに魚を育てる「稲田養魚(とうでんようぎょ)」は、かつて内陸部を中心に広く営まれていたが、今日では長野県佐久地方などの限られた地域にのみ見られる古い農法である。近年、米魚両全(こめうおりょうぜん)とも評されるこの伝統的農法の高い生産性や環境親和性に対して、新たに農業の多面的機能の保全・再生の観点から関心が集まっている。しかし、本農法の優れた生産性や環境親和性の背後にある生態学的機序については十分解明されていない。
そこで筆者らは、長野県佐久市の水田において、稲作と養魚の互恵関係を支える生態系プロセスの解明とこの相互効果の定量的評価を目的として、炭素・窒素安定同位体比を指標とした生物間および生物−環境間の物質フローの解析を進めている。具体的には、δ13Cおよびδ15Nの測定とそれらを用いた安定同位体混合モデル解析により、生物間の食物網構造の量的記述と稲体および魚体(フナ)を構成する両元素の起源推定(土壌、肥料、養魚飼料等)を目指している。本発表では、これまでに得られた水田土壌および稲体の安定同位体比の結果について報告する。
耕作者が同一で互いに隣接した養魚水田と慣行水田の組み合わせ3組(計6面)において、土壌のδ15Nを測定した結果、慣行水田よりも養魚水田のほうが相対的に高い値を示し、養魚水田では栄養段階上位生物に由来する有機物量が多くなっていることがうかがわれた。同様の傾向は月ごとに採取した稲体(葉身)のδ15N値にも見られ、養魚にともなう有機物量増加の影響が稲体にも波及していることが示唆された。なお、9月の葉身と玄米のδ13Cおよびδ15Nはほぼ同様の値を示し、器官間の違いはあまりないことがわかった。上記の結果を踏まえ、今後はサンプリング済みの水田生物、肥料等についても順次同位体比の測定を進め、混合モデルを用いた解析により、稲田養魚における米魚両全の生態系プロセスを明らかにしていく。