| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-E-172 (Poster presentation)
大型草食獣である有蹄類は、生態系に大きな影響を及ぼすことが知られている。北海道東部のエゾシカCervus nippon yesoensis個体群は1980年~1990年代に爆発的に増加し、阿寒国立公園の森林植生は、枯死木の増加や嗜好種の減少など著しく劣化した。その後、特定鳥獣管理計画に基づく公園周辺での狩猟捕獲や森林管理者の許可捕獲により、生息密度は27.1頭/km2(1993年)から9.5頭/km2(2009年)に低下し、一部の草本種の被度や植物高に回復傾向が認められている。本研究は、エゾシカが森林の更新に及ぼす影響を把握することを目的として、稚樹(樹高20㎝以上)、小径木(樹高130㎝以上、胸高直径5㎝未満)の密度と生存率に及ぼす採食圧の有無(FEN)、相対光量子密度(RPD)、クマイザサ被度(SAS)の影響について、一般化線形モデルを用いて解析した。調査は、1995年に公園内の針広混交林(3ヶ所)、落葉広葉樹林(3ヶ所)、未立木地(1ヶ所)に設置した囲い柵(10×20m)内外において2009年~2011年8月に実施し、標識した個体の樹種、樹高(稚樹のみ)、胸高直径、採食痕の有無等を記録した。その結果、稚樹密度にはFEN、稚樹生存率及び小径木密度にはFENとRPDが影響していることが明らかとなった。また、小径木生存率とFEN、RPD、SASの間に有意な関係は認められなかった。これらの結果から、現状のエゾシカの生息密度では依然として稚樹の生存に対する採食圧の影響が大きく、天然更新をはかっていくためには、より一層の生息密度の低減が必要だと考えられた。