| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-E-178  (Poster presentation)

岡山県蒜山地域における半自然草地の利用形態 - 聞き取りと地域史料から-

*片岡博行(重井薬用植物園)

岡山県の最北端に位置する真庭市蒜山地域には、毎年春に火入れされる半自然草原があり、希少な動植物が生息・生育している。この草原は、伝統的に人によって利用・管理されてきたとされる。その伝統的な利用形態について、地元古老からの聞き取りと地域史料をもとに、分類と整理を試みた。

蒜山地域において、火入れ管理の対象となる草原には、大別して「茅山」、「草刈り山(草山)」、「柴草山」の3つの形態が存在した。「茅山」は、夏期の草刈りを禁じ、ススキ草地として維持されており、刈り取ったススキは主に屋根材と冬期の積雪から家屋を保護するための「雪囲い」の素材として利用されたのち、肥料として田畑に施用されていた。「草刈り山」は、旧暦5月頃から10月頃まで日常的かつ集落内で競争的に草刈りが行われ、家畜の飼料および田畑の肥料として利用されていた。「柴草山」は、蒜山地域は雪融けが遅く、旧暦5月頃の田植えの時点ではまだ草が十分に成長していないため、水田への刈敷とする目的で低木の若枝を刈り取っていた場所である。また、家畜(牛)の飼育については、江戸後期の時点では無畜農家も多く、また、ほとんどが役牛としての牡牛の飼育であった。牧畜はこの地域では伝統的には行われておらず、放牧地としての利用は昭和以降の比較的新しい利用形態と言える。

調査結果からは低木あるいはススキが主体であった場所や、草刈りを繰り返され植生高が低く抑制されていた場所など、多様な植生が草原の中に存在していたと推測された。また、人口の増減などに応じて、利用形態や面積が変化していた可能性も示唆された。半自然草原の保全に関しては、火入れによる維持・管理だけでなく、過去の利用形態がどのようなものであったのか、保全対象の生物がどのような管理が行われていた場所を主たる生息域としていたのかを考慮し、必要な保全方法を探ることが重要と考えられる。


日本生態学会