| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-E-179  (Poster presentation)

ツキノワグマとイノシシにおける筋肉中放射性セシウム濃度の季節変動

*根本唯, 齋藤梨絵, 大町仁志, 溝口俊夫(福島県環境創造センター)

東京電力福島第一原子力発電所事故により放出された放射性核種による生物や生物利用を通した人への影響を評価するためには、環境から生物への放射性核種移行メカニズムを明らかにする必要がある。そこで本研究では、福島県のイノシシ(Sus scrofa)とツキノワグマ(Ursus thibetanus)を対象に、放射性核種移行と食性や生理特性など生物的な要因の関係性を把握する上で重要な放射性セシウム濃度の季節変動を明らかにすることを目的とし、2011~2016年に福島県が行った野生鳥獣の放射線モニタリング調査結果を用いて、筋肉中137Cs濃度の季節変動を一般化加法混合モデル(GAMM)により解析した。併せて季節変動を解析する上で筋肉中137Cs濃度に対する捕獲場所の環境中137Cs濃度の影響を考慮するために、捕獲場所の土壌中137Cs濃度と筋肉中137Cs濃度の関係を線形混合モデル(LMM)により確認した。LMMの結果、両種とも捕獲場所の土壌中137Cs濃度は筋肉中137Cs濃度に正の影響を与えていた。さらにモデルは種間で異なり、同じ土壌中137Cs濃度の場所で捕獲した個体であっても、イノシシの方がツキノワグマより筋肉中137Cs濃度は高い傾向にあった。この結果から、GAMMによる解析の際には、捕獲場所の土壌中137Cs濃度をoffset項として使用した。GAMMの結果、筋肉中137Cs濃度には季節変動が見られ、その変動パターンは種間で異なることが明らかになった。イノシシでは春から8月頃まで一貫して筋肉中137Cs濃度が低く、その後11月まで上昇した後は3月まで高い値で安定していた。一方、ツキノワグマでは、春から底を打つ9月まで減少し、その後、ピークを迎える1月まで上昇する傾向を示した。本研究で認められた種間差には、種間の食性、生息地利用および生理特性の違いが影響していると考えられる。


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