| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-E-180  (Poster presentation)

樹上性陸産貝を用いた森林環境の指標化

*佐伯いく代(筑波大学・人間総合), 丹羽慈(自然環境研究センター), 長田典之(北海道大学・北方圏フィールド科学センター)

サッポロマイマイは北海道南部に生息する樹上性カタツムリで、国のレッドリストでは準絶滅危惧種に指定されている。本種のような林冠に生息する生物は、観察が行いにくく、分布や生態に関する知見に乏しい。その一方で、林冠は生物多様性の豊かな場所として知られており、樹上生物の生息状況を把握し、適切に保全していく方法の開発が求められている。本研究では、樹上生物であるサッポロマイマイの分布密度を計測し、森林環境との関係を明らかにすることで、指標生物としての利用可能性を探索することを目的とする。
 まず、サッポロマイマイがどの季節に木の上で生活しているのかを調べるため、北大苫小牧研究林内にある林冠観測用ジャングルジムを使って、樹上と林床での個体数を約1か月おきに記録した。その結果、サッポロマイマイは、冬季は林床の落葉の中で冬眠し、5月中旬になると一斉に樹上に移動し、その後しばらく木の上で生活した後、10月中旬ごろに越冬のため再び地上に降りてくることが明らかとなった。次に、同研究林(2715ha)を網羅するように35地点の調査地を選び、林床に5.4m×5.4mの調査区を設置して落葉内で越冬する個体の密度を調べた。この調査はサッポロマイマイが林床で越冬し、かつ積雪のない時期に行った。その結果、長期に伐採されていない落葉広葉樹林において個体密度が高く(0.29/㎡, n=16)、落葉広葉樹の二次林がそれに続いた(0.16/㎡、n=10)。針葉樹の人工林(0.01/㎡、n=6)や皆伐・風害跡地(0.01/㎡、n=3)では密度が低く、森林タイプの違いが本種の生息状況に影響を与えていることが示唆された(GLMM、p<0.01)。以上より、本種は、夏は樹上にいて観察が難しいものの、越冬時に林床で個体数を調べることで生息状況を把握できること、また自然性の高い森林の指標種として利用できることが明らかとなった。


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