| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-E-184 (Poster presentation)
谷津田の代表的な両生類の1種であるニホンアカガエルR. japonicaの生息地において,水田の冬季の管理方法がニホンアカガエルの産卵場所選択に与える影響を明らかにした。対象地域は滋賀県甲賀市小佐治地区である。同地区は野洲川流域に含まれ,古琵琶湖層群の甲賀累層に由来する地質は,この地域に無数の小高い丘陵と小河川の侵食によってできた無常谷とよばれる谷をもたらした。人間活動が始まってからは,無常谷は谷津田として開墾され,水稲生産の場となり,丘陵部は農用類林として利用されてきた。このような地質と地形により,冬季でも湛水し乾燥による地割れを防ぐ農法が継承されてきたが,1950年代以降,農業の機械化と圃場整備によって,冬季でも乾田化される水田が増加した。しかし,近年,環境保全活動の一環として開始された「水田ビオトープ」や「冬季湛水」によって,冬季の湿田環境が徐々に回復しつつある。本研究では,ニホンアカガルの産卵場所選択に影響を与える要因として,冬季の水田内水域の割合,谷津田における水田の順序,圃場面積を候補とした,地理的重み付けを考慮できる回帰モデル(地理的加重回帰;Geographical Weighted Regression, GWR)による検証を行った。地理的加重回帰によって,固体密度の高いエリアで卵塊数が大きくなりやすいという移動能力の限られた生物の特徴を考慮した,1筆ごとの回帰式を導くことができ,各変数の係数を地図上に示すことができる。これにより,エリアごとに卵塊数を規定する要因を考察することができる。2016年2月~3月の間に小佐治地区内の水田全413筆で記録された卵塊で分析を行った結果,エリアごとに偏りはあるものの,概ね水田内水域の割合が大きな影響を与えていた。このことは対象地域での保全活動の効果を示す一方,保全活動を行っていない水田には保全活動の開始によってニホンアカガエルの産卵場所を創出する効果を示しているといえる。