| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-F-188 (Poster presentation)
希少動物や環境の保全のため飼育下や他地域の個体を絶滅した地域に放す再導入による個体群復元が近年多くの分類群で行われている。多くの事例で再導入は一定の成果をあげているが、失敗例や試行錯誤を繰り返す事例も少なくない。より効率的に自立した個体群を確立させるためには、性比や遺伝的多様性を考慮した個体を選ぶだけでなく、その個体の履歴なども重要になる。特に年齢(成熟の有無)は、野外に放された後の環境への順応性に大きく影響する可能性がある。2008年から佐渡ヶ島で再導入が実施されているトキはこれまでに0歳から7歳までの計252個体が放鳥されており、現在そのうちの約130羽が生息している。多くの個体は放鳥後、既存の群れに合流し野外での生活に順応していくが、放鳥後野外の環境に順応せず行方不明になる(死亡する)個体も少なくない。また、繁殖成功率も約25%と高くなく、未だに安定した個体群の定着に至っていない。そこで本研究では、2008年から2016年までに放鳥されたトキを対象に生存率や繫殖成功率と放鳥時の年齢の関係に注目して調べた。
野外個体の生存率は放鳥時の年齢が若いほど高くなる傾向があった。中でも放鳥時に性成熟していない1歳の個体は、生存率が高く既存の群れへ合流するのにかかる期間も短かった。特に野外の個体数が増えてきた近年(2014年以降)の放鳥個体では、その傾向が顕著であった。これらの結果は放鳥時の年齢が若い個体、特に性成熟していない若鳥ほど新しい環境への順応性が高いことを示唆していた。佐渡島内のトキの数は近年、急激に増加しており、群れ行動をするトキの放鳥個体にとっての環境は放鳥回ごとに大きく異なる。今回の発表では、なぜ若い個体ほど順応性が高いのか、また今後更に数が増えていく中で放鳥時の年齢はその後の生存率や繁殖率にどう影響するか検討したい。