| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-F-194 (Poster presentation)
近年、各地で森林衰退が報告され、冷温帯に広く分布するブナ林も例外ではなく、地球温暖化がこのままのペースで進めば、広い範囲で現状を維持することが困難になる。消滅を回避するには、若くて健全な森林を再生させる必要がある。若いブナが定着できる環境について、ブナ実生の生長量と光環境との関係から考察した。
岡山県毛無山のブナ自然林内に調査区を設けて、1996年からブナ実生の生長量を追跡調査した。実生が生き残っているササのない調査区6か所(ギャップと閉鎖林冠それぞれ3か所)で毎年春(5月下旬)と秋(10月下旬)に長さと直径を測定した。材積量から、春期の生長量は前年10月と当年5月の差、夏期の生長量は当年5月と10月の差とした。また、光環境は2011年からの5年間、6か所の調査区で感光フィルムによる積算光量子量(PPFD)を推定し、光量子計による実測値で補正した。さらに、ブナ実生の葉の葉緑素量(SPAD値)をそれぞれの地点で2015年に測定した。
PPFDは5月中旬にギャップで高くなったが、両林冠のSPAD値には差がなかった。5月下旬には両者に明確な差が見られ、ギャップでPPFDが100molとなったときにSPAD値が40を超えたのに対して、閉鎖林冠ではその後も40を超えることはなかった。生長量と光量子量との関係は、ギャップと閉鎖林冠をあわせた全体では春期も夏期も正の相関があったが、ギャップでは夏期には相関がなくなり、閉鎖林冠ではいずれの期間ともなかった。生長量とSPAD値も同様の関係を示した。
ブナは、早期に短期間に同化システムを完成させて、光獲得に有利な体制を作り上げることが知られているが、夏期の生長を抑えることにより、翌年の春に備えて稼ぎを蓄積に回していることが示唆され、ギャップのような光環境では、前年の稼ぎによって短期間に体制が整えられると予想される。