| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-F-215 (Poster presentation)
絶滅危惧種の保全では対象生物の個体数の多寡が成功の判断基準となるため、個体群動態は重要な指標とされる。一般的に、生物の個体群動態は生息地の環境変動の影響を受けることが知られる。特に野外では、台風などの自然災害等の大規模な環境変動がしばしば発生する。そのような環境変動が絶滅危惧種の個体群動態に与える影響を明らかにするためには、その基盤として好適かつ安定的な野外の生息地内での個体群動態の性質を明らかにする必要がある。一方で、そのような生息環境を安定的に維持し、絶滅危惧種の個体群動態の性質を解明することは、長期の定量的なモニタリングの必要があるため、野外では非常に困難であるとされる。しかし、安定的な生息環境下の個体群動態に対する大規模な環境変動の影響が明らかにされた場合、対象生物の個体群維持のメカニズムの解明や保全計画の立案等への大きな寄与が期待される。
絶滅危惧種ヒヌマイトトンボの保全を目的として人工的に形成された三重県伊勢市の生息地では、2003年の創出以来、本種にとって好適な生息環境が維持されていることが定量的に示されている(寺本 2015)。加えて、本種の個体数が10年以上の長期に渡りモニタリングされていることが知られる。
本研究では、1. 人工生息地のヒヌマイトトンボ個体数から、実測値に基づいた個体群動態のモデルを作成することにより、好適かつ安定的な環境下における本種の個体群動態の性質を明らかにした。加えて、2. 作成したモデルに対して、環境変動を与えるシミュレーションを行い、大規模な環境変動が本種個体群に与える影響を明らかにした。これらの結果から、本種の個体群維持のメカニズムを解明し保全への提言を行う。