| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-G-226 (Poster presentation)
ヨーロッパ原産のハルザキヤマガラシBarbarea vulgarisは、生態系への悪影響が危惧され、環境省の「生態系被害防止外来種リスト」や日本生態学会の「侵略的外来種ワースト100」に挙げられている。本研究では、侵入先の日本における基礎的な知見を得るため、長野県・八ヶ岳周辺の国道に沿った分布標高と栄養繁殖の記載、国道で除草が行われる前後の種子発芽率の比較を、2016年度に行った。
国道141号・299号線の路傍では、標高およそ1000m以上でハルザキヤマガラシの顕著な分布・結実が確認された。調査地で最高標高の2127m(麦草峠路傍)でも、ハルザキヤマガラシの分布・結実が確認された。標高1700m以下の路傍では、7月から8月の間に刈取り除草が行われていたが、刈取り後の根や茎から新たにロゼットが生じ、栄養繁殖していた。また、刈取られた植物体の一部や花茎は、回収されず放置されていた。7月と8月で種子発芽数を比較すると、7月の方が発芽率は低く、1地点を除きどの種子も一定数発芽した。発芽数と採取地の標高の間には、7月は負の相関が見られ、8月は有意な相関は見られなかった。
以上から、寒冷なヨーロッパ原産のハルザキヤマガラシは、中日本の亜高山帯へ侵入・繁殖していることが示された。本種は1個体あたり最大88000粒の種子をつけるので、刈取り時に種子を全て回収するのは難しいだろう。標高1500m以下の地域での現行の刈取り除草は、種子分散を助長している可能性も否めなく、刈取り時期を改める必要がある。また、栄養繁殖を防ぎ、本種を除去するためには、主根を引き抜く必要がある。本種の生育好適地は、在来のヤマガラシB. orthocerasと似ているため、亜高山帯への侵入は、ヤマガラシや在来植生への脅威となりうる。今後は、侵略メカニズムの解明とともに、在来植生への影響・交雑可能性の有無も検討する必要がある。