| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-H-248  (Poster presentation)

ダイコクコガネ属の造巣行動は仔の餌の質を上昇させる。

*赤嶺真由美(日大・生物資源), 三島達也(九大院・比文), 深津武馬(産総研・生物プロセス), 岩田隆太郎(日大・生物資源)

糞虫は、多様な造巣行動を進化させており、仔の餌であり住処でもある育児球を造ることはそのひとつである。ダイコクコガネ属及び数種の糞虫の造巣行動では、地下に穴を掘って、運び込んだ餌を、一端大きな塊にして約1週間置いたのち、それを分割して育児球を形成する。この大きな糞塊を造る行動は、発酵の役割があると考えられているが証明された例はない。我々はこれまでに、ゴホンダイコクコガネに牛糞を与えて飼育して得た糞塊、育児球を用いて、真菌叢及び細菌叢を調査し、真菌叢で造巣行動の進行に伴って、特定の担子菌系酵母が増加する結果を得ており、親は育児球の形成において、この酵母が優占するように糞を加工していると考えられた。今回、この酵母が優占することが餌の質を改変し、仔に良質な餌を提供しているのか調査した。上記の微生物叢を調査した同じサンプル(与えた牛糞、糞塊、育児球、人工糞塊)と、新たにゴホンダイコクコガネに馬糞を与えて育児球を造らせ、育児球及び地上に残された糞を採取し、それぞれCN比を計測した。また育児球の内壁及び、一部の幼虫および成虫の腸内容物から上記の担子菌系酵母が検出されるか調べるため、顕微鏡観察により酵母様の形態が認められたものを繰り返し選別後、ITS領域のダイレクトシークエンスおよびBLAST検索により同定した。与えた牛糞と、糞塊及び育児球では、その造巣行動の進行に伴ってCN比は低下した。一方、人工糞塊では、7日後では親が作った糞塊と同程度にCN比は低下したが、14日後には再び上昇した。また馬糞から得た育児球と、地上に残された糞の間でも育児球においてCN比は低かった。育児球、幼虫および成虫の腸の培養からも、特定の担子菌系酵母が同定された。以上から、ダイコクコガネ属の造巣行動は、仔の餌の質を上昇させる効果があり、これには親から垂直伝搬していると考えられる特定の担子菌系酵母が関与している可能性が示唆された。


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