| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-H-250 (Poster presentation)
森林の地下部では, 多様な菌根菌が樹木と共生関係を築いている. これら菌根菌の群集は, 地理的隔離(空間距離)・気候・土壌の微環境などが関与して成立している. しかし, これらの要因が菌根菌群集に対してどの程度の影響を及ぼしているかを定量的に示した例は少ない. 本研究では, 菌群集組成に対する空間性・気候・土壌環境の相対的な寄与率を詳細に評価するため, 高山帯に単一樹種林を成すハイマツ林を対象に, 実生菌根, 成木の鉱質土層菌根と有機物土層菌根の3つのカテゴリに分けて菌群集の解析を行った.
2015年の7-10月と2016年の8-9月に, 国内9カ所のハイマツ林においてサンプリングを実施した. 各調査地において, 30の実生および成熟林内30カ所の土壌コア(有機物層, 鉱質土層)を採取した. 実生および土壌コア内の外生菌根を形態により類別し, 3反復を確保してDNA抽出サンプルとした. 5774の外生菌根サンプルから4738の塩基配列が得られた. rDNA ITS領域の相同性(≥97 %)に基づくOTU作成により197 OTUs が検出された(実生菌根 82 OTUs; 鉱質土層菌根 95 OTUs; 有機物層菌根 132 OTUs).
菌群集組成は, 調査地間およびカテゴリ間で有意な違いが認められた. 菌群集組成に対する空間性・気候・土壌環境の寄与率を独立に評価した結果, 全ハビタットにおいて気候(気温, 標高)の影響が他の2要因より相対的に大きかった. 菌群集組成に対して最も寄与するパラメータは, 実生菌根と鉱質土層菌根では標高, 有機物層菌根ではpHであった. また, 菌群集組成に対する気候・土壌環境の寄与を取り除いた後は, 空間性の寄与は検出されなかった. これらの結果から, 外生菌根菌の群集は空間性(地理的隔離による分散制限)と比較して, 気温や土壌化学性などの局所的な環境に強く応答している可能性が示唆された.