| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-K-323  (Poster presentation)

スイセンハナアブとマルハナバチ:擬態者とモデルの生態の比較

*須島充昭(東京大学総合文化研究科)

ハナアブはハエ目に属する昆虫で、ハチ目の昆虫に擬態していると考えられている種がいくつか知られている。モデルとなるハチが毒針やかみつくことのできる形状の口器を持っているのに対し、ハナアブにはこうした器官が無いために擬態が進化したと考えられる。本研究では、こうした体の構造の違いに加え、生態や行動の面で何が擬態の進化に関わっているのかという点に着目した。擬態者とモデルの生態の類似や相違についての情報を集めるため、ここではスイセンハナアブ(Merodon equestris)とマルハナバチ(Bombus属各種)を研究対象とした。スイセンハナアブはマルハナバチ擬態の種で、外来種であるが擬態種としては例外的に野外での個体数が多く、生態情報を集めやすい。ここではいくつかの生態のうち、まず交尾行動に着目した。求愛や交尾に気を取られている昆虫は捕食者に対する警戒を怠りやすく、連結している雄と雌は迅速に逃避することができない。そこでスイセンハナアブとマルハナバチを対象として、野外で交尾が観察される頻度や交尾場所の比較を試みた。演者はこれまでに4つの調査地点(東京、横浜、埼玉、仙台)でおよそ1000個体のスイセンハナアブを捕獲したが、これらには70個体(35ペア)の交尾中の個体が含まれていた。一方、これらの調査地点でルートセンサスを行い、およそ500個体のマルハナバチの目撃記録を集めたが、これまでのところ交尾中の個体の目撃は一度もない。このことから、野外で交尾が観察される頻度には大きな違いがあると考えられる。また、スイセンハナアブは訪花植物体上など目立つ場所で交尾する傾向が強かった。このように、擬態者の交尾行動は、それらが高い捕食圧にさらされる要因の一つとなっている可能性がある。


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