| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-K-332 (Poster presentation)
気候と土地利用の変化は生物多様性に対する二大脅威であり、両者が生物の広域分布に与える相対的な影響が注目されている。既往研究は夏の分布のみを扱ってきたが、季節に応じて移動する鳥類では、分布を規定する要因やその影響度には季節差があると考えられる。本研究では、気候や地形、土地利用が鳥類の種数に及ぼす影響を夏と冬のデータを用いて調べた。
環境省モニタリングサイト1000の調査結果(2009~2015年)を利用した。森林サイトでは森林性の、草原サイトでは開放地性の昼行性在来種を対象とし、各種を渡り鳥(季節に応じて移動する種)と留鳥(定住性の高い種)に分類して、各サイトにおける各グループの種数を求めた。各グループの種数を応答変数、各環境要因(年平均気温、最深積雪、標高、周囲1.25 kmの生息地面積)とそれらの2乗項を説明変数とする一般化線形混合モデルを用いて、季節ごとに解析した。
年平均気温が低い地域には夏の渡り鳥が多かった。冬の気候が厳しい寒冷地では留鳥が少なく、夏に急増するが留鳥に消費されない資源を渡り鳥が利用できるのだろう。一方で、温暖で少雪な地域には冬の渡り鳥や開放地性の留鳥が多かった。これらの鳥類は冬の厳しい気候を避けていると考えられる。また、積雪は地上付近での採餌を阻害するため、少雪地が越冬に適しているのだろう。森林性の留鳥の種数は年平均気温が中程度で最大となった。落葉広葉樹林帯で夏の餌が得やすいためかもしれない。このように、日本の鳥類の種数は主に気候によって規定され、各地域が季節とグループを変えて生息地として機能していた。土地利用は夏にのみ影響しており、周囲1.25 kmの生息地が多いほど種数が多かった。このような場所では、繁殖に必要な資源を十分に得られるのだろう。よって、土地利用も日本の夏の鳥類多様性に一定の影響は与えていると言えるが、面積だけでなく、より詳細な土地利用の解析が今後は求められる。