| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-K-334 (Poster presentation)
植食性昆虫の多様性の高さを説明する仮説の1つに、「植物の葉の質の違いが植食者群集を多様化させる」というものがある。この仮説を検証するには、植食者にとっての植物の葉の質、つまり「有用性」の定量が必要である。しかしながら、植物種間では系統関係や生態的地位など様々な要因が異なり、一方、植食者の嗜好性も異なるため、葉の有用性を測ることは難しい。本研究では、極めて広食性で、特定の防御形質に対する適応が見られないと考えられる、エリサン(カイコガ科:Samia cynthia ricini)を用いることで、植食性昆虫に対する葉の有用性の評価を試みる。
本研究では、北海道大学苫小牧研究林のクレーンサイトにある全樹種を対象として、エリサンを用いて摂食実験を行った。結果として、実験後のエリサンの体重と、葉のCN比、硬さに正の相関が見られた。また、実験後のエリサンの体重と、野外でのイモムシの総個体数や食害面積とは、相関が見られなかった。一方、樹種ごとに得られた鱗翅目および膜翅目幼虫の総個体数とSLA(比葉面積)、CN比、硬さに正の相関が見られた。また、樹種ごとの系統関係がイモムシ群集へ与える影響を調べたところ、樹木種間の系統距離が離れるほど群集間の非類似度が大きくなったが、葉の形質には系統の影響は見られなかった。これらの結果から、エリサンを用いて樹木葉の有用性がある程度評価できたと考えるが、野外での食害については、植食者にとっての資源量=葉の量が樹種ごとに大きく異なることが、食害に影響するため、この点を以下に考慮するかが課題として残った。さらに、今回測定できなかったAlkaloidやPhenolicsといった葉の形質を見ることで、葉の有用性をより説明することができる可能性がある。これらを今後の課題とする。