| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-K-337  (Poster presentation)

イチゴ属の異質倍数化とゲノム構造の多様化に伴う形質および生育地環境の多様化

*永野聡一郎, 白澤健太, 平川英樹, 林篤司, 七夕高也, 磯部祥子(公益財団法人かずさDNA研究所)

ゲノムの倍数化は植物の多様化をもたらす要因の一つとして考えられてきた。しかし、倍数化に伴う遺伝子重複は、対立遺伝子の多様化を通じて植物の形質の多様化や分布拡大を促進させる場合と、遺伝子の機能が冗長になることで多様化や分布拡大を抑制する場合が考えられ、現在も議論が行われている。イチゴ属(Fragaria)には二倍体(2n = 2x = 14)から十倍体(2n = 10x = 70)まで、20種を超える倍数性の異なる野生種が属し、ヨーロッパ、アジア、南北アメリカ大陸の温帯から寒帯(高山帯)にかけて広く分布している。この中には例えば、リファレンスゲノムが明らかにされ、北半球に広く分布する二倍体のF. vescaや、ゲノム育種に向けて基盤情報が急速に整備されつつある異質八倍体の栽培イチゴ(F. × ananassa)の両親として知られるF. virginianaF. chiloensisがある。本研究では、倍数性の進化におけるモデル植物としてイチゴ属に着目し、倍数性と分布域および形質の多様性の関係について明らかにすることを目的とした。まず、野生のイチゴ属15種の分布と生育地環境の関係について、既存の文献と気象データベースを用いたメタ解析を行った。その結果、高次倍数体の10種よりも二倍体の5種のほうが多様な生育地環境に生育していることが明らかになった。中でも四倍体種は他の高次倍数性種よりもさらに生育地環境が限られ、主成分分析の結果、標高を示す第一主成分軸上に特異的な分布を示した。これらの結果から、イチゴ属の分布拡大に対するゲノムの倍数化の効果は、少なくとも生育環境の多様化に必須とは言えないことが明らかとなった。一方、高次倍数性の種は分布域が地理的に集中していることから、限られたゲノムの倍数化イベントの後に形質に対する選択を受けて分布域が拡大した可能性が示唆される。この可能性を検証するため、形質および関連するゲノム領域の比較を行う。


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