| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-L-346  (Poster presentation)

シマホルトノキの生態的分化に及ぼす遺伝と環境の効果

*須貝杏子(森林総研), 鈴木節子(森林総研), 永光輝義(森林総研), 村上哲明(首都大・牧野標本館), 加藤英寿(首都大・牧野標本館), 吉丸博志(森林総研)

海洋島で一般的な進化現象の1つとして、生態的種分化が挙げられる。異なる生育環境間での分断化選択によって遺伝的に分化した集団(エコタイプ)が形成され、その結果として生態的種分化が引き起こされる。小笠原諸島の主要構成樹種の1種であるシマホルトノキElaeocarpus photiniifoliaは、父島列島において遺伝的に分化した2つのエコタイプ(湿性エコタイプ・乾性エコタイプ)が存在し、それぞれが異なる生育地(湿性林と乾性林)に分かれて分布していることが明らかになっている。そして、湿性林と乾性林に分布する集団間では有意な遺伝的分化がみられる。しかし、低頻度ではあるが湿性林に乾性エコタイプが、乾性林に湿性エコタイプがそれぞれ存在することがあり、エコタイプ間でも遺伝子流動は存在すると考えられている。
本研究では、(1)生育地間で生態的分化が生じ表現型可塑性があるのか、(2)エコタイプ間で生態的分化が生じ表現型に遺伝的分化があるのか、を明らかにすることを目的とした。父島の4集団(隣接した湿性林と乾性林の集団ペア2組)に注目し、土壌含水率と樹高、開花フェノロジーを調べた。土壌含水率は、梅雨明け後の1ヶ月間に時間と共に全ての集団で低下していき、湿性林よりも乾性林でより低かった。また、樹高の違いと開花フェノロジーのずれは、異なる生育地の同じエコタイプ間だけでなく、同じ生育地内の異なるエコタイプ間でも見つかった。つまり、表現型の可塑性と遺伝的変異の両者が含まれていることを示唆していた。本研究の結果は、異なる生育環境に対する表現型可塑性が表現型の違いを生じさせ、その中の一部である開花フェノロジーのずれが生殖的隔離と遺伝的分化を促進し、また、環境に関連する形質における遺伝的変異をもたらすことを示していた。


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