| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-L-348 (Poster presentation)
体内に有毒物質を持つ被食者同士が、互いに似た警告色を持つことで捕食を逃れるミュラー型擬態は、古くから生物学者の関心を引いてきたが、その形成メカニズムが明らかにされた例は稀である。本州から九州にかけて分布するミドリババヤスデ種複合体(以下ミドリババ)とアマビコヤスデ属は、共に似た灰色の体色を呈する。これらヤスデ類は青酸系分泌液を持つことから、この類似はミュラー型擬態環の例と考えられる。ミドリババのいくつかの系列は灰色擬態環から祖先状態のオレンジもしくは灰色とオレンジの中間色へと再移行している。演者らは、この灰色擬態環からの抜けだしの要因として、捕食(寄生)圧の違いと多発的な種分化に注目した。まず、主要な捕食者と考えられる鳥類の各体色型への反応を、灰色とオレンジのヤスデ型クレイモデルを用いた野外実験で調べた。その結果、鳥類によるアタック率は灰色モデルとオレンジモデルの間で明瞭な差は見られなかった。一方、野外におけるハエ類の寄生は灰色のヤスデ種に偏る傾向があり、ハエは灰色のヤスデを選択して寄生している可能性がある。捕食(寄生)者により、ヤスデの体色に与える影響は異なるのかもしれない。地理的に見るとミドリババにおける灰色からオレンジへの移行は関西及びその周辺地域に限られ、中間色への移行もこの地域でよく生じている。この地域においてミドリババでは交尾器・体サイズの多様化による多発的種分化が生じており、それが体色の多様化を通じて灰からオレンジ・中間色への移行を促している可能性がある。本発表では、捕食(寄生)者と種分化が複合的にミュラー型擬態の形成に及ぼす影響について議論する。