| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-L-350 (Poster presentation)
産業革命以後、大気二酸化炭素濃度の上昇に伴う温暖化や海洋酸性化といった人類がもたらした環境変化による生物への影響は深刻な問題である。そのため、環境変化に対する生物応答とその進化の理解は将来の生態系動態の予測に重要である。しかし、先行研究の多くは表現型に見られる影響の評価にとどまり、その裏側にある遺伝子レベルでの影響は不明瞭である。そこで、本研究では海洋酸性化が西部北太平洋亜寒帯域に生息するミジンウキマイマイ(Limacina helicina)の貝殻形成への影響に着目した。高い二酸化炭素濃度の海水(pCO2 = 1100 ppm)で10日間飼育した結果、貝殻の表面構造や炭酸カルシウム密度への顕著な影響が見られなかった。また、RNAseqにより発現する遺伝子の網羅的な解析を行った結果、体内のpH調節や貝殻形成に関与するいくつかの遺伝子の発現が上昇することが明らかとなった。本結果は今後進行が予測される海洋酸性化に対して正の応答を可能とする遺伝的基盤がミジンウキマイマイ(L. helicina)に存在している可能性を示唆している。