| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-L-352 (Poster presentation)
哺乳類の体毛は熱放散を抑制する断熱効果を持つ。また,体毛には細くて柔らかく下毛と太くて硬い保護毛の2種があり,断熱効果は下毛の方が高い。冬眠する小型齧歯類のニホンヤマネGlirulus japonicusの体毛の特徴を,下毛と保護毛の密度と長さに着目して,冬眠しないアカネズミApodemus speciousと比較した。さらにヤマネの体毛の特徴の地域的な差異を調べた。標本は各地の博物館所蔵のヤマネの標本30体と捕獲したアカネズミ5個体を解析に用いた。
ヤマネとアカネズミの体毛の特徴を比較すると,ヤマネの方が下毛密度が高いが保護毛密度は低く,全体としての体毛密度が高かった。また,ヤマネでは,胸の保護毛密度が他の部位に比べて低かった。調べたヤマネの生息地の冬期(12ー2月)平均気温と下毛密度,体毛密度は負の相関を示した。ヤマネの体毛の特徴に基づいて標本をクラスター分析すると,これまでに知られている遺伝集団とは異なる,主に山形県,群馬県,埼玉県,岐阜県産からなる集団と鳥取県,静岡県,兵庫県産からなる集団の2つの集団に大きく分かれた。この集団間では下毛密度に差があった。
寒冷期に冬眠で熱生産量が減少するヤマネと寒冷期でも運動や代謝を増やすことで熱生産量を増加できるアカネズミでは,熱放散量を抑制する重要性が異なる。このことが,ヤマネとアカネズミの下毛密度と体毛密度の違いに影響していると考えられる。また,寒冷であればそれだけ下毛密度が高くなること,その特徴の分布は遺伝的な地域集団とは違うことから,ヤマネの体毛は生息域の寒冷条件への適応としての特徴を備えていることが示唆された。