| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-L-353 (Poster presentation)
進化生物学における一つの常識的な知見として、「自殖集団では有害遺伝子が排除される」というものがある。自殖をすると、劣勢有害遺伝子がホモになって生存力が低下する種子が出現しやすい。そうした種子が死亡することで有害遺伝子が排除されるわけである。
ところが現実には、自殖率が高いのに近交弱勢も高い(有害遺伝子が多数保持されている)植物が非常に多い。この矛盾は今日まで、進化生物学における大きな謎とされている。
本研究では、モデルを用いて、自殖集団においても劣勢有害遺伝子が排除されないメカニズムを提唱する。
【モデルの仮定】胚発生の初期に関わる早期発現遺伝子と、以降の発達成長に関わる後期発現遺伝子とを考える。早期および後期発現の遺伝子に、劣勢の有害な遺伝子が生じる。胚珠は余剰生産されており、早期発現の有害遺伝子がホモとなり死亡した胚がある場合、その替わりに他の胚が発生する。発達した種子は、次世代に向けて生存競争を行う。後期発現の有害遺伝子がより多くホモとなっている種子ほど生存率が低く、この競争において不利である。
【結果】シミュレーションの結果、自殖率が高い集団においても、早期発現・後期発現の有害遺伝子が多数保持されることがわかった。これは、「早期発現ホモかつ後期発現ホモ」の胚があらかじめ排除され、他の胚が種子に発達するためである。結果として、早期および後期の有害遺伝子をヘテロで持つ胚が発達しやすくなり、集団中から排除されにくくなる。さらには、有害遺伝子をヘテロで持つ種子が多くなるため、有害遺伝子を多数保有しながら生存率は高い種子が多くなる。そのため、集団の絶滅率も低くなるであろう。
【結論】早期発現の有害遺伝子が「適応的」に働いて後期発現の有害遺伝子ホモ胚を排除するので、結果として、早期および後期発現の有害遺伝子が保有されることになる。