| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-M-363 (Poster presentation)
食う・食われる関係は、出生・死亡といった過程のみならず、餌を追う、天敵から逃避するといった生物の移動を通じても生物分布や個体数に影響する。本研究では、天敵回避や資源獲得のための生物の移動行動が、食物連鎖系の構造に及ぼす影響について数理モデルで理論的に明らかにし、その生態学的な意味を考察した。この数理モデルでは、資源の生産力が異なる二つのパッチ(高生産パッチと低生産パッチ)に存在する資源・資源利用者・捕食者の三者からなる生物群集を考える。各パッチでの生物個体数は移動のみによって変化するため、二つのパッチの個体数の合計は変化しないとした。資源利用者と捕食者の両方が、餌密度と天敵密度の両方を考慮に入れて移動する場合の、各パッチでの個体密度の平衡状態を求めた。また、天敵と出会うことで資源利用者が天敵を避けるようになる恐怖反応の効果を入れたモデルも解析した。このモデルでは、資源利用者(活性資源利用者)は捕食者と出会うことで、恐怖反応を示して、捕食者から姿を隠すなどして利用しにくい状態(非活性被食者)になる;非活性被食者は、一定の時間が経過すると活性被食者に戻るという仮定を加えている。数理モデルの解析から、恐怖反応の有無にかかわらず、高生産パッチの方が資源利用者も捕食者も多く存在することがわかった。このことは、資源が多いほど、どの栄養段階の生物も個体数が多くなりやすいことを予測すると同時に、生物の適応的な移動が、生息地の生産性に応じた生物群集の変化を生み出しうることを示している。また、恐怖反応を含めたモデルにおいては、2つのパッチで資源利用者が同じ個体数になる平衡状態が得られた。これは、恐怖反応の生じていない個体と生じている個体では、生息・利用する資源パッチが異なりうること、恐怖反応は資源の密度に応じた分布を強めることを予測している。