| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-M-368  (Poster presentation)

磯焼け状態になった海藻群落に生じるヒステリシス:メタ群集モデルを用いた理論的説明

*押味良太(横浜国立大学), 西嶋翔太(中央水産研究所), 松田裕之(横浜国立大学)

 海藻群落が著しく衰退または消失する現象は磯焼けを呼ぶ。その中でも、海藻の消えた海底面をウニと無節サンゴ藻が優占する状態を、特にurchin barrensと呼ぶ。海藻群落とurchin barrensという2種類の状態には、いずれもその状態を保とうとするレジリエンスが働いている。そのため、ある状態からもう一方の状態へと一度遷移が起こると、元の状態へと戻りにくくなる。このヒステリシスを理論的に説明するためには、それらが代替安定状態にあることを説明すればよい。本研究では、まず、各状態での生態的特徴を考慮したメタ群集モデルを構築した。4種類のパッチ(海藻優占パッチ、ウニ優占パッチ、海藻・ウニ共存パッチ、空きパッチ)の動態を表す力学系モデルを考え、このモデルが持つ複数の平衡点を求め、それらの平衡点の局所安定性の解析を行った。その結果、ウニの絶滅率の変化に対して、局所安定な平衡点が非線形に応答し、海藻群落とurchin barrensが代替安定状態の関係にあることが数学的に説明された。つまり、磯焼け状態になった海藻群落に生じるヒステリシスを理論的に説明できた。
 また、先行の実証研究では、この系におけるヒステリシスをウニの密度を横軸にとって調べているが、この密度の変化の要因については直接的に評価がされていない。本研究のモデルでは、ウニの絶滅率を表すパラメーターがeuとmuの2種類に分けられるため、実証研究では明らかにできていないメカニスティックな部分について調べることができた。muはウニの捕食者が漁獲されることで変化し、euはウニの自然死亡率を表す。この2種類のパラメーターの変化に対して、代替安定状態の生じるパラメーター範囲が相対的に異なることから、ウニの密度が変化する要因によってヒステリシスの強度が異なることが示唆された。


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