| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-M-371 (Poster presentation)
貴重な遺伝資源である天然生林を持続的に利用し管理していくには、それらの林分の成立要因を理解することが不可欠である。本研究では、林冠木の多くが天然生とされ択伐が行われている魚梁瀬大戸山国有林のスギについてマイクロサテライトマーカー8遺伝子座を用いて血縁度と遺伝構造を調べ、人為の影響を含めた成立要因について考察した。天然生のスギが優占する調査林分内に70×200mの方形区を設置し、高さ130cm以上のスギに関して位置とサイズを記録した。調査区内には239本のスギが生育しており、直径階分布は胸高直径10cm以下と70~90cmにピークをもつ二山型を示した。調査直前に調査区内で択伐によって伐採された17本を含めて遺伝子型を特定し、血縁関係を調べたところ、10組21個体で全兄弟の関係が、のべ507組で半兄弟の関係がみられた。また空間遺伝構造解析から、30m以内の近距離クラスで有意な正の相関がみられたことから、遺伝的に類似した個体が集中して分布していることがわかった。択伐のような小規模の攪乱によって生じた定着サイトは近隣の母樹の実生が優占すると考えられることから、空間遺伝構造解析の結果は兄弟のような近縁個体の集中した分布を反映しているのかもしれない。また、解析したスギの11組24本は同じ遺伝子型を示したことから、これらは同一クローン(ジェネット)であると考えられた。多雪地帯においては伏条による旺盛な更新が見られるものの、調査地においてはシュートの繋がりが確認できるような現在進行中の伏条更新はみられなかった。スギのクローナル繁殖は倒木からの回復でも報告されており、台風のような稀な攪乱後のクローナル繁殖の可能性が示唆された。一方で10m以上離れたクローンも存在したことから、伐採後の挿し木苗の植栽のような人為的な更新の可能性も考えられた。