| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-M-372 (Poster presentation)
ブナ科樹木の種子である堅果は大型で栄養が豊富なため、多くの捕食者によって摂食されることが知られている。中でも種子散布前に堅果を加害する種子食昆虫は、種子生産に大きな影響を与えていることが報告されている。ブナ科樹木は種子生産に豊凶が認められることが多いが、このような種子食昆虫による加害がその大きな要因の一つとも考えられている。
西日本の暖温帯域における都市近郊林ではアカマツ・コナラを中心とする林からコナラ・アベマキ等が優占する落葉広葉樹林、シイ・カシが優占する常緑広葉樹林へと変化してきている。このような森林においては、複数のブナ科樹種が遷移の進行度合いによりその密度を変えながら混交している。ブナ科樹木の種子食昆虫はある特定の一種だけを加害するスペシャリストだけでなく、複数の樹種を加害するジェネラリストもみられる。ブナ科樹木の混交割合の変化は種子食昆虫の加害パターンを変化させ、それらの種子生産に大きく影響している可能性がある。本研究では、京都市市街地北部のブナ科樹木の混交割合が異なる二つの林分(コナラの優占度の高い「コナラ優占林」、コナラとともにアベマキ、アラカシが混交する「混交林」)において、コナラの雌繁殖器官および成熟健全堅果の落下量や種子食昆虫による加害の季節的パターンを複数年度にわたり調べ、ブナ科樹木の混交割合の違いが種子食昆虫の加害や種子生産パターンに与える影響を明らかにすることを目的とした。
その結果、「コナラ優占林」「混交林」の両林分においてハイイロチョッキリによる吸汁や産卵といった加害がコナラの種子生産に大きな負の影響を与えていたが、「混交林」のほうがその影響が大きいことが明らかとなった。「混交林」のコナラ不作時におけるハイイロチョッキリのアベマキへの寄主転換が主な原因として考えられた。