| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-M-373 (Poster presentation)
樹木の繁殖開始サイズは、森林動態や種の共存機構を考察する上で重要な種特異的特徴であり、また森林保全・持続的管理の観点からも実用的な情報となる。現在、カンボジアでは急激な人口増加に伴って伐採圧が高まっている。カンボジアにおける持続可能な森林利用に資するため、本研究ではカンボジアの落葉フタバガキ林優占種の繁殖開始サイズを調査した。カンボジアメコン川東部のクラティエ州およびトンレサップ湖北東部のコンポントム州に位置する落葉フタバガキ林に調査地を設定し、落葉性フタバガキ科4樹種(Dipterocarpus obtusifolius、D. tuberculatus、Shorea siamensis、S. obtusa)を対象とした。2003–2014に掛けての複数回調査で、非繁殖個体のサイズを調査期間中の最大直径、繁殖個体のサイズを繁殖が最初に確認された時点の直径と定義した。調査地の繁殖個体密度(32-85個体/ha)は先行研究で示された熱帯季節林で種の維持に必要とされる繁殖個体密度(> 5個体/ha)を大きく超えていた。名義ロジスティック回帰モデルを用いて90%以上の個体が繁殖を開始するサイズを推定した。4樹種の繁殖開始サイズ(20.0-31.5cm)はカンボジア森林局が提唱する伐採基準直径(45-50cm)を下回っていた。これはカンボジア森林局のガイドラインが落葉フタバガキの更新に関して繁殖個体の確保の観点では相反しないことを示している。しかしながら、調査樹種の直径階分布は、若齢個体の継続的な加入を示唆する逆J字型分布を示した樹種はS. siamensisのみであった。D. tuberculatusとS. obtusaは15-25cmのDBHクラスにピークを有する単峰性の分布を示し、近年の更新不全が示唆された。更新不全の正確な理由が分かるまで、繁殖個体密度は高い水準に維持するべきである。