| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-M-378 (Poster presentation)
斜面崩壊後の草原植生の遷移の過程を推定するために, 熊本県阿蘇地域の半自然草原の異なる時期に崩壊した複数の斜面(崩壊後5年:MLS, および崩壊後26年:OLS)と,それに隣接する崩壊が確認されていない斜面(対照区:C)の3ヵ所を対象に植生調査を実施した. 斜面崩壊後の植被率は, NLSでは32.3%, OLSでは81.5%, Cでは100%となり, 遷移の進行とともに増加した. 優占種はCではススキであったが、OLSではトダシバとヤマハギであった. ススキの合計被度はNLSとOLSで差はなかった。したがって, ススキは斜面崩壊地では崩壊直後から進入するものの, 急速に勢力を拡大することはなく, 遷移の途上で一旦, トダシバやヤマハギが優占する植生が成立し, その後ススキの優占度が増加するものと考えられる. 調査地点の植物ごとの被度を用いたNMDSの結果, 種組成は斜面崩壊年代の違いにより異なった. これは斜面の崩壊からの時間の経過に伴い種組成が変化することを示している. それぞれの崩壊地の指標種はNLSでは, スギナ, オトコヨモギの2種であり, OLSではヤマハギ, トダシバ, オミナエシ, ユウスゲなど11種が指標種となった. Cではススキ, オオアブラススキ, オオバギボウシなど8種が指標種となった。指標種の出現頻度をみると, ヤマハギ, トダシバをはじめ OLSで高頻度で出現したものの, Cでの出現頻度が低下した種と, ユウスゲ, カワラマツバ, タカトウダイなどのようにOLSとCで出現頻度に差がみられなかった種が存在した. このことは, 遷移が進むにつれて出現頻度が低下する植物と, 出現頻度が変化しない種が存在することを示している. これらのことから半自然草原の崩壊地では種組成が崩壊からの年次とともに変化することが明らかとなった. それぞれの遷移段階で特徴的に出現する種が存在したことは, 異なる斜面崩壊年代の場所があることが半自然草原の生物多様性を高める要因になっていることを示唆している.