| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-M-379  (Poster presentation)

野火の発生抑制がサバンナにおける熱帯林種の定着を可能とする

*藤田知弘(国立環境研究所生物・生態系環境研究センター)

1.はじめに:近年,熱帯林とサバンナが隣接する地域では熱帯林の拡大が報告されている.熱帯林の拡大メカニズムとして, “Nucleation”と呼ばれるものがある.Nucleationとは疎開植生に生育する樹木を“核”として,非連続的にパッチ状の熱帯林が形成され,その後,放射状に拡大していく現象を指す.Nucleationでは,“核”木による定着過程における促進効果が重要とされてきた.しかし,具体的なメカニズムについては実証的な研究はこれまでおこなわれていない.本研究では,Nucleation過程における促進効果の解明を目的にアフリカ東南部マラウィ共和国北部ビプヤ高地で調査を実施した.
2.方法:本調査地にはサバンナ内にパッチ状の熱帯林が存在し,その中心部付近にはイチジクのなかま(Ficus natalensis)の大径木が特徴的に生育している.このような植生構造はNucleationによって形成された熱帯林パッチの典型例である.そこで本研究ではFicus n.をパッチ状の熱帯林形成の始点(核木)と仮定した.
3.結果と考察:Ficus n. 樹冠下・サバンナ優占種樹冠下・オープン(樹冠なし)に熱帯林の主要構成種であるSyzygium guineense ssp. afromontanum (フトモモ科.以下,Syzygium)の実生を移植し,生存率を3年間記録した.オープンにおける実生の生存率は樹冠下に比べて1/6程度であった.これはサバンナ内での熱帯林樹種の定着に促進効果が不可欠であることを示唆する.そこで,促進効果のメカニズムを明らかにするため,Syzygium実生の枯死原因を分析した.3年間の調査の結果,火の影響(枯死原因が特定できた個体の55%)が最多で,乾燥がこれに続いた.火による枯死は草本被覆率が高い(=可燃物量が多い)オープンに集中していた.一方,樹冠下は草本被覆率が低く,周囲は燃焼していても,調査区内に火が侵入した痕跡はみられなかった.以上から,促進効果のメカニズムとして,先行研究の指摘する乾燥の緩和に加え,火の発生抑制が重要な要因と示唆された.


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