| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-M-380 (Poster presentation)
樹木個体の集まりである林分の現存量(炭素蓄積)は,個葉の集まりである葉群の機能とその配置である林冠構造の影響を受ける。また人間による土地利用は,植物が利用できる養分等の改変により,植生の回復に影響を与えると言われている。このため,異なる土地利用履歴を持つ林分の現存量や資源利用についての比較は,開発などで新たに失われた林地の復元や創造を異なる場所で行う際,場所選定や復元・創造後の現存量評価に役立つ情報を提供できるだろう。
たとえば草地から落葉広葉樹二次林に転用された林では,採草による養分の持ち出しの影響が考えられる。光合成能力と直結している窒素は,樹木の成長にも影響を与えるが,酸性沈着物などの供給を除いた場合,森林では不足しがちな資源である。したがって草地から転用された落葉広葉樹二次林は,草地として利用されていない落葉広葉樹二次林よりも,葉の窒素濃度や林分の現存量が低下している可能性が考えられる。
そこで阿武隈高地南部の林齢20-40年の,草地由来の落葉広葉樹二次林(草地-広葉樹林)と,少なくとも30年前には草地であった記録のない落葉広葉樹二次林(対照広葉樹林)の,土地利用履歴の異なる2種の林について,現存量を胸高直径5cm以上の毎木調査で評価し,またその中で主要樹種であるクリ,コナラの葉の窒素濃度について調べた。
その結果,地上部現存量,クリ,コナラの葉の窒素濃度に草地-広葉樹林と対照広葉樹林の間に明瞭な差はなかった。また葉の窒素濃度は,クリ,コナラ共に,林齢,林冠の植被率と負の相関がみられた。これらの結果から,1)今回対象とした阿武隈高地南部の林齢20-40年の草地由来の広葉樹二次林においては,葉の窒素量や地上部現存量に土地利用履歴の違いによる明瞭な差は見られないこと,2)窒素濃度には林齢の増加に伴う林冠部の発達や個体葉量の増加よる窒素濃度の希釈が影響を及ぼしていると考えた。