| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-M-383 (Poster presentation)
奈良県南部に位置する大峯山系弥山のシラビソ縞枯れ林では,ニホンジカの採食圧により森林更新が阻害され,シラビソ林の維持が危惧されている (Tsujino et al. 2013; 辻野ほか 2013).
そこで,弥山周辺におけるシラビソ林の動態を明らかにするため,弥山西尾根南斜面に1.0 haの調査区を設置し,2008年と2015年に胸高直径5 cm以上の樹木の種名と位置,胸高直径,剥皮・角とぎの有無を記録した.2009年と2016年には高さ50 cm以上胸高直径5 cm未満のすべての稚樹の種名と位置,高さ (H<130 cm)または胸高直径 (H≧130 cm),被食の有無を記録した.
優占するシラビソ,トウヒ,コメツガについては,調査木をStage 2 (H<130 cm),Stage 3 (長さ≧130 cm,DBH<5 cm),Stage 4 (5 cm≦DBH<10 cm),Stage 5 (DBH≧10 cm)に分け,7年間の死亡率,高さ生長,直径生長を比較した.
高さ50 cm以上の樹木数は2008/2009年から2015/2016年にかけて2059本から1958本に減少した.シラビソは1193本から1048本に減少,トウヒは406本から501本に増加,コメツガは264本から250本に減少した.シラビソはStage 4での減少数が大きく,トウヒはStage 3と4での増加数が大きかった.
7年間でのシラビソの死亡数は386本で,新規加入数261本を上回るのに対し,トウヒの死亡数は94本で,新規加入数199本が上回った.死亡率は,シラビソが32%,トウヒが23%だった.Stage 2の高さ生長は,シラビソが7年間で平均28.5 cm,トウヒが47.6 cmだった.Stage 3~5の直径生長では,シラビソは1.63 cm,トウヒは2.96 cmだった.
以上をまとめると,シラビソの生育本数は現在も減少中で,小林 (2009)が示した1985年からの減少傾向が継続している.一方でトウヒの個体数が小径木で増加中であることがわかった.さらにシラビソはトウヒに比べ死亡率,高さ生長,直径生長,死亡数に対する新規加入数でいずれも分が悪く,今後シラビソ林が衰退してゆく過程でトウヒが優占してゆく可能性が指摘できる.