| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-O-433 (Poster presentation)
従来、樹木は高木になるほど根から梢端までの水輸送が物理的に困難となり、梢端部は慢性的な水不足に陥りやすいと考えられてきた。しかし近年、いくつかの針葉樹高木種において梢端部ほど葉の貯水能が高くなることが明らかとなり、水輸送の困難さが補償されていることが示唆されている。熱帯林の林冠を形成している広葉樹高木種には、ふくらんだ葉柄をもつ葉が存在し、蒸散や光合成など水分要求の高い葉に近い場所での貯水・給水システムの可能性が窺える。本研究ではこれらの実態解明を目的として、突出木であるDipterocarpus sublamellatusの高所における葉の水分生理学的評価および組織構造の観察を行った。半島マレーシアのパソ森林保護区に生育する樹高約40mの個体を対象とし、隣接する林冠木のMangifera foetidaを比較対象とした。2016年9月に、観測用タワーを用いて高さ32mの地点において枝葉の水ポテンシャル、葉柄・葉身の含水比について日変化を測定した。また、幹の胸高および高さ32m地点の大枝において樹液流速度を計測した。実験室に持ち帰った枝葉から切片を作成し、光学顕微鏡観察を行った。その結果、D. sublamellatusの水ポテンシャルは枝では夕方にかけて低下したものの、葉では低下しなかった。PV曲線から算出した葉の貯水能は、D. sublamellatusがM. foetidaの約3倍高かった。また、D. sublamellatusの葉柄の含水比は1日を通して葉身よりも高かったが、M. foetidaの葉柄と葉身の含水比には差がなく、D. sublamellatusの葉身と同程度であった。D. sublamellatusの樹液流動は、幹胸高と高所の大枝で樹液流の上昇時にはタイムラグがなく、減衰時には高所の大枝よりも幹胸高で遅れていた。D. sublamellatusの葉柄の組織構造は皮層が厚くなっており、外観におけるふくらみを形成していた。以上から、D. sublamellatusの葉柄は貯水タンクとなって高所の葉における水不足の回避に寄与することが示唆される。