| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-P-444 (Poster presentation)
光合成を行うほとんどの陸上植物の葉は緑色であり,地球上どの植生帯においてもほぼ同じ分光吸収・反射特性を示す.これは主に光化学系のアンテナ色素複合体を構成するクロロフィルaとbおよびカロテノイド類の分光吸収特性に依存しており,非常に一定である.一方,海洋環境では,深度に伴って卓越する青緑成分の弱光をうまく吸収できる色素を保持した多様な生物が存在し,光利用効率を高めていることが知られている.そのため,陸上植物の分光特性の均一性は,入射日射スペクトルとその強度に関係していることが予想されるが,これまでその理由は明らかではなかった.そこで,陸上植物の葉における日射吸収に及ぼす吸収スペクトルの影響を,エネルギーと光量子の観点から直達日射スペクトルの実測データと簡単な植物生理学的モデルによって考察した.色素レベルでは,クロロフィルの日射吸収効率は低かった。また,エネルギー含量の高い波長の短い光子(青~紫)はカロテノイド類が競合的にクロロフィルへの吸収を抑制していることが示唆された。さらに,クロロフィルなどの光吸収タンパク質によって構成される光化学系複合体は,直達放射のエネルギーが最も高くなる波長(550nm)の吸収を避ける特性を示し,これは個葉レベルの分光特性にも反映されていた。一方,柵状組織の発達は葉緑体レベルの光吸収の平準化に非常に大きな効果を持ち,細胞内での葉緑体の運動や葉緑体のクロロフィル含量の変化も熱収支調整に効果があった。大気CO2濃度に対して放射が強すぎる地球の陸上では,直達日射に対して吸収率の低い光合成色素を持ち,色素濃度と細胞構造の組み合わせによる吸収エネルギーの最適化が重要であることが示された.このことは,地球の陸上植物の光合成色素や光合成器官の運動特性・組織構造は,直達日射による強光を避けることから,安全かつ有効に利用できる方向に進化してきたことを示唆している.