| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-P-452 (Poster presentation)
熱帯雨林の蒸散や炭素蓄積において巨大木が占める割合は大きい。巨大木の水利用が乾燥に対してどのように応答するのかを明らかにすることは、気候変動に伴う強い乾燥が熱帯雨林の水・炭素循環や森林動態に及ぼす影響を予測する上で重要な課題である。本研究では、マレーシア・ボルネオ島の低地フタバガキ林に生育するDryobalanops aromatica C.F.Gaertn. の巨大林冠木を対象に、4か月間の雨水遮断実験を行った。樹液流速と葉の水ポテンシャルを計測して個体の平均気孔コンダクタンスと通水コンダクタンスを算出し、土壌の乾燥に対する応答を対照木と比較した。気孔コンダクタンスは、湿潤時でも他の様々な生態系で計測された既往の報告例と比べて小さく、飽差の増大に伴う低下の割合も高めであった。実験期間中、実験木の夜明け前と日中の水ポテンシャルは対象木よりも低下し、実験木は対象木に比べて強度の土壌乾燥にさらされていることが確認できた。実験期間中に実験木の気孔コンダクタンスはやや低下したが、降雨が少なかったために対照木の気孔コンダクタンスも低下し、その程度に大きな違いはなく、飽差に対する感度にも変化はなかった。一方、通水コンダクタンスは、実験期間中に実験木で対照木に比べて大きく低下したが、実験後に回復した。以上の結果から、D. aromaticaの巨大林冠木は湿潤時でも蒸散が抑制される傾向にあり、強度の土壌乾燥時でもさらに積極的に平均気孔コンダクタンスを低下させていないこと、その一方で、実験で生じた土壌の強度乾燥により樹体の通水性が低下することが分かった。本実験よりもさらに強く長い乾燥が生じた場合には、通水性の喪失による枯死リスクが高まる可能性が考えられる。