| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-P-453  (Poster presentation)

落葉広葉樹の標高分布を決定する生理生態学的要因は何か?:ブナとダケカンバのケーススタディ

*杉浦大輔(東大・院・理), 宮下彩奈(東大・院・理・日光植物園), 舘野正樹(東大・院・理・日光植物園)

標高や緯度傾度に応じた森林植生の分布は、温量指数によって説明されてきた。しかし、落葉広葉樹林を構成する樹種の違いなど、特定の樹種の分布可能域を、植物の成長特性と環境要因から説明した研究例は少ない。例えば、冷温帯林や低標高域から気温の低い寒温帯林や高標高域にかけて、森林を優占する落葉樹はブナからダケカンバに変化するが、このような垂直分布を決定する要因には不明な点が多い。そこで本発表では、低標高から高標高にかけて設置したサイトにおいて、ブナとダケカンバの実生の移植・成長解析と微気象観測を同時に行うことで、これらの落葉広葉樹の標高分布を決定する微気象要因と生理生態的特性の解明を試みた。

栃木県日光市に標高650m、1500m、1800m、2200m にサイトを設置し、2014年10月から2015年10月にかけて、各サイトにおける微気象要因(光強度、気温、VPD)の 測定と、ブナとダケカンバ実生の成長解析を行った。これらの結果から、各サイトにおける両樹種の実生の更新可能性を予測した。

各サイトの微気象要因は気温のみで大きな差がみられ、高標高ほど生育期間は短かった。全ての標高において、相対成長速度(RGR)、純生産速度(NAR)、葉面積比(LAR)、葉のN濃度、根の窒素吸収速度(SAR)は、ダケカンバはブナよりも高い値を示した。両樹種とも高標高ほどRGRが低下したが、一日あたりのNARは標高間で大きな差がなかったため、RGRの低下は生育期間の短さに起因すると考えられた。これら微気象要因と成長特性から、ブナは2200mでは更新不可能であることが予測され、実際に2200mのブナの冬芽サイズは有意に小さかったことも予測を支持した。以上の結果から、パイオニア植物的な形質(高いNAR、LAR、SAR)を持つダケカンバは、短い生育期間の高標高で正の炭素収支を維持可能なために高標高に分布可能であり、そのような形質を持たないブナは高標高に分布できないことが示唆された。


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