| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-Q-464 (Poster presentation)
寒冷圏の気候的特色である低温や乾燥は,植物の光合成系に異常を引き起こす光ストレスの原因となり,北方林樹木の枯死率を高める可能性がある。低温と乾燥が,高木限界付近で生育するダケカンバ(Betula ermanii)やヒマラヤバーチ(B. utilis)の寒冷地での生育を左右する環境因子であることが,近年報告されている。北方林の針葉樹は,短い生育期間にもかかわらず光合成を犠牲にして気孔を閉じ,蒸散による水分損失を回避する,または,気孔を開いて光合成をしながら乾燥に耐える。このような寒冷地での生存戦略の知見は,落葉広葉樹では乏しい。
本研究は,北方林での落葉広葉樹の生存戦略を明らかにすることを目的とし,カバノキ属樹木の光合成機能や成長,光ストレス応答に乾燥ストレスがどのような影響を及ぼすのかを調査した。寒冷圏の南限に位置する北海道の主要樹種のうち,落葉広葉樹であるカバノキ属3種(ダケカンバ,シラカンバ B. platyphylla,ウダイカンバ B. maximowicziana)の苗木を用い,土壌水分の制御実験を行った。
苗木の基部直径,苗木あたりの葉数や着葉期間,生存率は水分制限を行った個体で3種ともに低下した。最大光合成速度,蒸散速度,気孔コンダクタンスの値は,シラカンバの土壌水分制限個体で低下する傾向があったが,水利用効率,葉の水ポテンシャルは3種ともに水分制限の影響が不明瞭であった。光ストレスを防ぐための過剰光エネルギーを熱として変換するキサントフィルサイクルによる応答は,応答が顕著になった時期が3種それぞれ異なり,苗木の落葉や枯死のタイミングに関連する可能性が示された。以上により,土壌水分制限が光合成や蒸散等の生理的応答に与えた影響は不明瞭であった一方,葉数や着葉期間が低下したことから,カバノキ属樹木は土壌乾燥に対して積極的に落葉することによって植物体内からの脱水を防いでいると考えられる。