| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-Q-465 (Poster presentation)
林冠構成種がほぼすべて常緑樹の森林では、上層が閉じれば林床は一年中、植物の成長にとって厳しい暗さだと考えられる。しかし、そのような森林で、どれほど植物の成長や存在可能な種の多様性が制限されているのかを説明した例はほとんどない。本研究では、多様な林冠状態をもつ林床においてそれぞれ可能な光合成量を明確にした上で、植物の葉の特性を用いた稚樹の炭素収支の判定を行い、①森林更新がギャップ依存なのかどうか、②どのような特徴をもつ種がより暗い環境で生育可能なのかを明らかにした。
琉球大学与那フィールド内で、多様な林冠状態(ほぼ閉鎖、ギャップ、オープンなど)をもつ林床6か所に観測点を設置し、約2年にわたって地上30cmでの光量子束密度と気温を計測し続けた。測定期間中、2つの大きな台風の襲来があり、その攪乱による光環境改善効果も得られた。また、6点のうち林冠閉鎖サイトとギャップサイト各1点において、センサーの周囲半径数m以内に生育する稚樹の葉寿命、葉重/葉面積比(LMA)、光合成能力を計測し、葉の相対成長率を計算することで個体の炭素収支を推定した。
結果から、①閉鎖林冠下は付近で見られたほとんどの種にとって継続した成長が困難な暗さであり、耐陰性の大きな種でもギャップの生成なしには順調な生育ができないことが示唆された。また、通常の台風による攪乱の効果は長く続くとは言えず、耐陰性種の成長を促進するが光要求性種の成長にはより大規模な攪乱が必要であるといえた。②林床にみられた稚樹のうち、個体の光補償点がより小さく、より暗い環境で生育可能だと判定された種の中には、比較的長命でLMAの大きな葉を持つ種、短命で小さなLMAの葉を持つ種、中間的な種のいずれもが存在した。耐陰性種の葉の特徴としては一般に、長命で大きなLMAをもつことが知られているが、炭素収支の維持能力という点から、弱光下でも多様な種が存在しうることが示唆された。