| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-Q-469 (Poster presentation)
ブナ林は冷温帯の代表的極相林として日本に広く分布するが、丹沢、立山、英彦山等ではブナの衰退が問題となっている。これまでの研究からオゾンや水欠乏の影響が指摘されているが、その影響程度は明らかではない。そこで、ブナ苗木をオゾンに曝露し、生長に及ぼす慢性的影響に関する環境制御実験を行った。水欠乏処理として、250ml/3日の灌水区(22週間の降水量換算で1,300mm程度)を100%とし、80~50%の灌水処理を行い、日平均70ppb、50ppb、0ppbの3段階のオゾンに曝露した。相対生長率(RGR)等を算出し、水欠乏処理区毎に、0ppbに対する各オゾン濃度のRGRへの影響を纏め、AOT40(5~10月のブナ生育期における6:00~18:00のオゾン濃度(時間平均値)のうち40ppb以上のデータの積算)とブナの生長抑制との関係式を算出した。日本全体の地表オゾン変動再現実験では、MIROC-ESM-CHEMとWRF/CMAQを用い、全球CTMの水平分解能約300㎞(T42)データを領域CTMの境界条件として、これを異なる水平分解能を持った領域CTMでダウンスケールすることにより、15km(日本全体)の水平分解能で計算を行った。日本各地のブナ生育期間に於けるAOT40のデータセットを作成し、AOT40に対するRGRの回帰式からRGR(相対値)のデータセットを算出した。これをGIS上でブナが分布している地域(環境省第5回自然環境保全基礎調査(1994~1998)の植生調査-3次メッシュデータの群落コードよりブナの名称を含む群落、群集、群団等を抽出)に重ね合わせ、ブナのRGRへのAOT40の影響をプロットし、リスクマップを作成した。今回の計算では、首都圏北西部や甲信越地方でブナ林への影響が大きく、AOT40が高い年には日本海側のブナ林全体への影響が上昇すると評価された。このマップは東アジア地域の大気汚染排出や温暖化によるオゾンの将来的な増加に対する、各地のブナ林存続のリスクを示唆している。