| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-Q-470  (Poster presentation)

樹洞は貧栄養な環境で大木になるための戦略かもしれない-熱帯泥炭湿地林の場合-

*門田有佳子(京都大学), 清野嘉之(森林総合研究所), Lulie Melling(Tropical Peat Research Laboratory Unit, Sarawak), Christopher Damian(Tropical Peat Research Laboratory Unit, Sarawak), Auldry Chaddy(Tropical Peat Research Laboratory Unit, Sarawak)

樹木が大きな地上部を持つには多くの建設コストが必要だ。また不安定な土壌の上では幹の直立を維持することが難しい。しかしShorea albidaが優占する熱帯泥炭湿地林は、貧栄養な泥炭が堆積した不安定な立地に大木が成立している。大きなS.albidaの多くは、幹に樹洞(うろ)がある。貧栄養で柔軟な泥炭湿地で、どのようにして大木が成長し直立を維持しているのか?この疑問に対して、形態的、構造的な視点から考察を試みた。熱帯泥炭湿地林では、泥炭の分解の程度によって異なる森林タイプが成立する。養分がやや多い立地の森林タイプ(PC2)では、S.albidaは幹に樹洞を伴って大木まで成長する。一方で貧栄養な立地の森林タイプ(PC3)では幹全体が脆心材で、最終的な個体サイズも中程度までしか成長しない。本研究では、サラワク州のマルダム国立公園内の熱帯泥炭湿地林で、PC2とPC3に成立するS.albidaを対象に、DBH、H、胸高樹洞直径を測定した。また先行研究から地上部と地下部バイオマスのデータ(AGB、BGB)を使用した。DBHと胸高樹洞直径の間には正の相関があった。樹洞が発生し始める個体サイズはPC2>PC3だったが、樹洞サイズとDBHの関係はPC2とPC3の間で有意な差が無かった。森林タイプ間で成熟個体サイズが異なる上に、個体の発達段階によって成長速度と材の成熟度が変化することから、森林タイプ間の樹洞の発達様式の差は、利用可能な養分量と個体の発達段階が関連していると考えられた。樹洞木では樹洞直径が大きいが、幹直径そのものが大きいために、断面二次モーメントの低下はわずかだった。大木の根返りを防ぐためには、力のモーメントが地上部<地下部の状態である必要がある。本泥炭湿地林は低地フタバガキ林と同等の樹高を実現しているが、根系深度が浅くBGBも小さい。高い樹高のまま地下部と釣り合うようにするためには、AGBを小さくする必要がある。そのため樹洞の存在は、泥炭湿地林で大木の直立を維持することに貢献しているかもしれない。


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